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横浜家庭裁判所川崎支部 平成3年(少)1733号 決定

少年 A(昭○.○.○生)

主文

少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、当裁判所平成3年少第1070号虞犯保護事件により、平成3年7月2日川崎市○○児童相談所長送致の決定言渡しを受け、現在a学園に在校中の者であるが、わずか数日後の平成3年7月17日に無断外出し、児童相談所のB職員の説得により同日夜帰院したが、翌18日早朝には再度無断外出し、B職員を訪ね、同人から警察に引き渡され、同日夜帰院した。ところが、さらに翌19日早朝には3回目の無断外出をし、父の居ない間に自宅に戻り着替えするなどしたが、警察に見つかり翌20日夜帰院した。少年は、更に翌21日夜には無断外出し、同月29日まで友人宅等を泊まり歩き、その間、数人の男女と一緒に過ごし、カラオケボックス、暴走族見学等をするなど、不良交友関係を深める一方、自転車窃盗を繰り返し、近所の者、友人の親、学校時代の先生等から種々の口実を弄し借金をして生活していたものである。少年は同月29日に帰院したが、その際児童相談所の職員に向かって包丁を振り回すなどして荒れた。更に翌30日には5度目の無断外出をし、8月5日児童相談所に保護されて、同日観護措置がとられた。このように少年は、同校に落ち着くいとまもない位に無断外出、外泊を繰り返し、その都度同校職員から適切な指導を受けたにもかかわらず、正当な監督に服することができず、右無断外出、外泊中、父のいる自宅に寄り付くこともなく、不良仲間との接触を深め、問題行動を累行していたもので、その各逃走期間中を通じてなんらかの非行と関わりを持ち、自己の徳性を害する行為をする性癖があることに照らし、このまま放置すれば、近い将来、窃盗、詐欺、シンナー吸引等の刑罰法規に触れる行為をする虞れのあるものである。

(適用法条)

少年法3条1項3号イ・ロ・ハ・ニ

(強制的措置許可の申請の要旨)

川崎市○○児童相談所長作成の平成3年8月17日付け児童事件送致書記載のとおりであるからこれを引用する。

(当裁判所の判断)

1  少年は、平成元年4月にb中学校に入り、真面目に学校に通っていたが、反抗期を迎え、父母に対する反抗的な態度が顕れてきていた平成2年10月ごろ、折悪しく少年の母親が万引きをし、母親を警察に迎えに行くという経験をして、母親に対する尊敬心を失い、反抗的な振る舞いが目立ち始めた。少年の母親は、平成3年1月下旬ころ些細なことがきっかけでその夫に対する従来からの不満を爆発させ、子供らを引き連れて転居したが、少年だけは、一人残された父親のことが気になり、家に帰ってみると、近所の女性Cが父の世話にきていたことを知り、父の異性関係を疑うと共に少年の存在を父が疎んじていると思い込み、父の関心を自分に向けようとしたのか急速に非行に走るようになった。父母は、平成3年4月30日に協議離婚し、父が少年らの親権者になったが、少年はCを嫌悪し、家に帰りたくないと思うようになり、家出をしても母には父の所に帰れと言われるので行き場に窮して、担任教師に相談し、同年5月7日には川崎市○○児童相談所一時保護所に収容されたが、父母双方から捨てられたとの被害感情が嵩じて所員に八つ当たりするかのように暴れ、無断外泊を繰り返し、やってもいない非行をしたなどと嘘をつくなど、児童相談所や他の児童に多大の混乱を生じさせていたことから、少年の情緒の安定を図り、健全に育成するために、同年7月2日川崎市○○児童相談所に送致され、a学園に収容された。

ところが、少年は、同学園に5日程いただけで、非行事実に示したように、ほとんど同院に居つく間もないくらいに無断外出を続けていたものである。

2  以上が、少年のこれまでの生活状況であり、これによると、少年は1年ほど前までは、非行とは関わりのない生活をしてきたものであるが、少年の両親の不和から離婚に至る経過の中で、両親から見捨てられたものと思い込み、失望と苛立ちを押さえ難くなったもので、その点には同情の余地はあるものの、少年の思い込みの激しさとその対応の頑なさ、激情的な反応、父や職員等の関心を引くための誇大表現、嘘等精神的安定を著しく欠くに至っているうえ、両親が離婚し、父親も少年の非行化の激しさに戸惑い、その適切な監護を期待できない状況であることも併せ考慮するならば、施設に収容して少年の健全な育成を図る必要があると言わねばならない。また、少年は、父親のことが理解できたので教護院に居るよりも父親と一緒に暮らしたいと思ったことが、無断外出の中心的な理由であると述べるものであるが、右主張通りならば、無断外出中父親のもとに帰るはずであるのに、自宅に帰るのは父親の居ない時を見計らってであることに照らすと少年の右主張はにわかに信じられず、施設収容は止むをえないところである。

しかし、他方少年が現在収容されているa学園での生活は同学園の秩序と他の児童の安定を害しかねないもので、それらの安寧を守るためには、少年を同学園の外に出さざるをえず、何らかの強制的な措置の取れる施設への収容が望まれる。ただ、少年は、教護院も含めて誰も自分の気持ちをわかってくれないという居ても立ってもいられないという衝動にかられて教護院を飛び出している面もあると思料されるのであって、これに対する有効な対応がなされない限り、本件非行と同種の非行がさらに持続されると予想されるから、少年に対する処遇として、少年をc学園に入所措置し、そこにおいて、強制的措置を加えて教護教育の強化を図ることは、かえって少年の失望と苛立ちを増加させるだけであって、少年に社会復帰の時期を予測できなくさせ、その健全な育成を図りえなくなりかねないと思料される。そこで、少年に対して強制的措置をとらないこととし、その申請を却下することとし、そして、早期に少年の精神の安定を図り、少年の日々の努力を評価し、少年の自己承認欲求を充足させる形で矯正教育を行い、中学校卒業時期には社会復帰できるよう考えるならば、少年に対しては、初等少年院(短期)に送致するのが相当であると判断する。

3  よって、少年法第24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山本善彦)

〔参考〕児相送致書〈省略〉

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